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名古屋地方裁判所 昭和41年(行ウ)27号 判決

名古屋市北区志賀町五丁目四十八番地

原告

鈴木政之

右訴訟代理人弁護士

大橋茂美

名古屋市北区金作町四丁目

被告

名古屋北税務署長

寺村信行

右指定代理人

川本権祐

沢村竜司

大須賀俊彦

飛沢隆志

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(一)  原告は名古屋東税務署長が昭和三十九年二月二十九日付でした原告の昭和三十五年分所得税の更正および加算税額の賦課決定(昭和四十一年三月二十九日名古屋国税局長の審査決定で一部取消された部分を除く)、昭和三十六年分所得税の更正および加算税額の賦課決定をいずれも取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として(一)名古屋東税務署長は原告の昭和三十五年分所得税および昭和三十六年分所得税につきそれぞれ昭和三十九年二月二十九日付でつぎのような賦課項目と金額をあげた更正、決定および加算税の賦課決定を原告に通知した。

(1)  昭和三十五年度分

所得額 金一六、四九五、五五六円

税額 金七、七三三、〇二〇円

重加算税 金三、八六六、五〇〇円

無申告加算税 金一、九三三、二五〇円

(2)  昭和三十六年度分

事業所得 金八三七、三四五円

給与所得 金九六、〇〇〇円

計 金九三三、三四五円

税額 金一二二、五〇〇円

過少申告加算税 金六、〇五〇円

(二)  原告は昭和三十九年三月二十九日右各処分を不服として名古屋東税務署長に異議申立をしたが同年六月二十三日異議棄却の決定を受けたので同年七月二十三日名古屋国税局長にたいして審査の請求をしたところ、同国税局長は昭和四十一年三月二十九日付で昭和三十五年分所得についてはつぎのとおり一部取消し、昭和三十六年分所得については棄却する旨を決定して原告に通知した。

昭和三十五年分所得税訂正額

事業所得 金一、七〇九、八一八円

給与所得 金四三、〇〇五円

計 金一、七四八、八二三円

税額 金四一三、八三〇円

重加算税 金一九一、五〇〇円

無申告加算税 金一〇三、二五〇円

(三)  しかしながら原告としては名古屋東税務署長のした所得税課税処分はもとより、これに関し名古屋国税局長のした審査決定にも全面的に不服であり、昭和三十五年分および昭和三十六年分について原告が前記のごとき賦課を受ける理由はない。

(1)  昭和三十五年分所得税に関する名古屋東税務署長の決定および異議申立にたいする棄却処分では

(イ)  瑞穂区春山町一八 一一、一二、一七山林四八九坪(一六一六平方米)

(ロ)  千種区猫洞通一ノ二宅地四〇〇坪六二(一三二四・三六平方米)

(ハ)  北区清水町三ノ二一、二二の一宅地一四七坪二(四八六・六一平方米)

の土地が原告の所有であり、これが昭和三十五年中に譲渡されたから譲渡代金から必要経費を差引いた金一六、四九五、五五六円の所得があるところ、この所得税の申告がないから前記(一)記載の所得税等を納付せよとの趣旨であつたが原告の名古屋国税局長にたいする審査請求の結果前記(二)記載のとおり裁決された。

そして右裁決理由は東税務署長が指摘した前記不動産の譲渡所得の判定が誤りであることを認めながら原処分の対象以外の別件事業所得および給与所得の発見を理由に結局原処分の一部を取消し、一部を維持するというのであるが右裁決理由に掲げる事業所得および給与所得の認定は原告としては全面的に納得できない不当違法な所得および課税の認定である。

(2)  昭和三十六年分に対する名古屋東税務署長の更正および異議申立に対する棄却処分では北区辻本通一の三〇宅地八九・四六坪(二九五・七三平方米)が原告の所有であり、これが昭和三六年中に処分されたから売買差益金金一、〇七三、五二〇円の所得があるところその所得税の申告がないから前記(一)の所得税等を納付せよとの趣旨であつたが原告の名古屋国税局長にたいする審査請求の結果前記(二)のとおり裁決された。そして右裁決理由は名古屋東税務署長が指摘した右不動産の譲渡所得の判定が誤りであることを認めながら、やはり原処分以外の別件所得、すなわち春日井市庄名町一〇四〇ノ五二、九三、九四、九五山林一六一一坪(五三二四平方米)の売買差益金金一、〇三九、九九〇円その他土地建物の売買差益および仲介手数料収入金八六五、八六〇円計金一、九〇五、八五〇円が原処分に含まれていないから原処分に洩れた必要経費金二七五、〇〇〇円を加算して再計算しても原告の事業所得は金一、三九四、〇七五円あり原処分額金八三七、三四五円を超過するから結局原処分を維持するというのである。

しかし右裁決理由摘示の不動産は原告外二名の共有物件であるからその売買差益を原告一人の所得と認めるのは根本的に誤りである上売買差益の認定も過大である。必要経費を控除すれば赤字となり昭和三十六年度における原告の事業所得は存在しない。右裁決理由に掲げる所得の認定もまた到底承服できない。

(四)  よつて原告は名古屋東税務署長のした原処分である前記更正等決定の取消を求めるものであるが昭和三十九年六月二十九日大蔵省組織改正により名古屋東税務署の所管事務が被告に移管せられたから被告に対し本訴請求をする。

被告の主張事実(一)のうち冒頭より不動産仲介業開業までの点昭和三十五年分の所得税の確定申告書を提出しなかつた点、昭和三十六年分の所得税の確定申告書を提出した点、名古屋東税務署長より被告主張通り原告の事業所得金額の課税決定処分および更正処分があつた点、右各処分につき原告が異議申立および審査請求をしたが被告主張通りの棄却決定、棄却裁決があつた点をそれぞれ認め、その余を否認し、原告は昭和三十五年中は開業の準備段階に過ぎなく赤字のため全然課税所得がなかつた。昭和三十六年分につき申告もれはない。同(二)昭和三十五年分につき(1)(イ)工作手数料金四、〇〇〇、〇〇〇円のうち金二、〇〇〇、〇〇〇円のみこれを認めるもこれは事業所得ではなく雑所得である。この点に関する証人長谷川正の証言は虚偽である。その余の収入項目を否認する。仲介手数料は原告は当時まだ開業していなかつたから仲介をするはずもなく仲介手数料を受領するはずもない。荻須と大野被服の売買は大須不動産の斡旋仲介によるものである。春日井市庄名町堤下の土地はもともと原告と伊藤寧が共同で買受けたもので後日その買受けた実際の持分の割合で登記手続を完了したに過ぎないから原告は伊藤から代金を受領していない。雑収入については被告主張の土地は原告の所有ではなく竹内の所有に属し新田のぶに右土地を売却したのは竹内で手附金を取得したのも同人である。原告はその仲介をしただけであるから手附金を自ら取得していない。必要経費のうち雇人費は金二〇四、〇〇〇円、家賃は金五六、〇〇〇円、ガソリン代は金一七五、〇〇〇円、自動車償却費は金九四、五〇〇円、自動車税は金三五、〇〇〇円、広告宣伝費は金一四〇、〇〇〇円、事務消耗品雑貨は金七〇、〇〇〇円が正当であり、その余の点は争わない。尚原告の昭和三十五年分工作費用は金一、五〇〇、〇〇〇円である。昭和三十六年分については仲介手数料と売上金額のうち金二、〇一一、五〇〇円の点を認め、その余の点を否認し、東加茂郡足助町大字月原所在土地につき原告がこれを買受ける目的で手附金を地主に交付したことはあるが原告は手附金を放棄して買受を断念し、原告の紹介で村田、福島両人が直接地主から右土地を買受けたのであるから原告は右土地を右両名に売却しておらず、代金を受領してもいない。必要経費のうち家賃は金九六、〇〇〇円、自動車償却費は金一二二、三九〇円、売上原価は金一、八七七、〇六〇円が正当である。その余の点は争わない。必要経費は金八七一、二四〇円を超過し現実の所得金額は零である。同(六)、(七)の各点を認める。と述べた。

被告は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、請求の原因たる事実(一)、(二)の各点を認め、同(三)のうち昭和三十五年、昭和三十六年共に名古屋東税務署長のなした異議申立棄却処分の理由および名古屋国税局長のなした裁決処分の理由を認め、その余の点を争い、被告の主張として、

(一)  (本件課税処分の経緯について)原告は名古屋国税局の職員であつたが昭和三十五年四月十五日名古屋西税務署勤務を最後として退職し、同年四月二十三日宅地建物取引業の認可を得て名古屋市千種区末盛通三丁目四十番地を営業場所として同年六月から不動産仲介業を開業した。原告は本件係争年である昭和三十五年分の所得税については確定申告書を名古屋東税務署長へ提出する義務があるにもかかわらず申告せず、また昭和三十六年分の所得税については確定申告書の提出はあつたが所得の申告もれが認められたので名古屋東税務署長は係員をして係争各年分の事業所得金額等について昭和三十八年一月頃から実地調査を行わせたところ原告は取引に関する伝票、帳簿その他の書類を全然備えておらず、かつ事業の収支の実額を明らかにするため係争年当時の事業の概況について説明を求めてもこれに応せず、全く調査に非協力的であつたので右実額の調査ができなかつた。そこで名古屋東税務署長はやむを得ず原告の取引先等について調査を行い、収支の実額の確認に努めると共に、確認のできないものについては資料等から推計して各年分の事業所得金額(昭和三十五年分金一六、四九五、五五六円、昭和三十六年分金八三七、三四五円)を算定のうえ昭和三十五年分につき決定処分をなし、昭和三十六年分につき更正処分をなした。右各処分について原告から異議申立および審査請求がなされたが前記のとおり異議申立を棄却する決定と審査請求については昭和三十五年分を一部取消(一部取消後の事業所得金額は金一、七〇九、八一八円)、昭和三十六年分を棄却する裁決がなされた。

(二)  (原処分の正当なことについて)原告の本件各係争年度の総所得金額は次のとおりである。したがつて同金額の範囲内でなされた原処分に付なんら違法はない。

科目 昭和三十五年分 昭和三十六年分

(1)  事業所得 円 円

(イ)  総収入金額 四、八二二、三九三 四、一六四、三〇〇

内訳

工作手数料 四、〇〇〇、〇〇〇 ―

仲介手数料 三三、〇〇〇 五五二、八〇〇

売上金額 五八九、三九三 三、六一一、五〇〇

雑収入 二〇〇、〇〇〇 ―

(ロ)  必要経費 八八七、八八六 二、五七九、七三三

内訳

売上原価 四二八、三三三 一、八七七、四〇〇

雇人費 一〇五、〇〇〇 ―

家賃 二一、〇〇〇 三六、〇〇〇

電話料 四九、〇〇〇 八四、〇〇〇

電灯料 七、〇〇〇 一二、〇〇〇

ガス水道料 三、五〇〇 六、〇〇〇

組合費 二九、〇〇〇 二四、〇〇〇

ガソリン代 六三、〇〇〇 九八、一八〇

自動車償却費 六五、八八六 一一九、七四三

自動車税 二四、五〇〇 四二、〇〇〇

広告宣伝費 五六、六六七 五〇、〇〇〇

事務消耗品雑費 三五、〇〇〇 一八、〇〇〇

支払手数料 ― 二一二、四一〇

(ハ)  差引事業所得金額 三、九三四、五〇七 一、五八四、五六七

(2)  給与所得

(イ)  収入金額 六三、七五六 一三〇、〇〇〇

(ロ)  給与所得控除額 二〇、七五一 三四、〇〇〇

(ハ)  差引給与所得額 四三、〇〇五 九六、〇〇〇

(3)  総所得金額((1)+(2)) 三、九七七、五一二 一、六八〇、五六七

(三)  昭和三十五年分事業所得の総収入金額

(1)  工作手数料金四、〇〇〇、〇〇〇円(内金二、〇〇〇、〇〇〇円については原告もこれを認む。)

右は原告が昭和三十五年中に長谷川正の依頼により譲渡所得税を免れるために、次に述べるような工作をした手数料として同年中に長谷川より領収したものである。すなわち長谷川は名古屋市瑞穂区春山町一八番の一一、一二、一七の土地および同市千種区猫洞通一の二の土地を所有していたところ右土地を他人に譲渡すれば譲渡所得税が課せられるのでこれを免れるため工作を原告に依頼した。ところで春山町の土地については昭和三十五年十二月十七日株式会社竹中工務店がこれを買受けることとなり、また猫洞通りの土地については同年十二月五日三井物産株式会社がこれを買受けることになつた。原告は右各売買について譲渡人が長谷川であることを隠ぺいするため春山町の土地については同年十二月十四日原告の使用人である野崎じやう名義の所有権取得の登記手続を経由し、右株式会社竹中工務店との売買契約書の売主名義や代金領収証の受取名義をすべて野崎じやう名義とした。また猫洞通の土地についても三井物産株式会社との売買契約の売主名義および代金領収証の受取名義を原告の義父荻須信義の使用人である水谷千代子名義にする等の工作をした。しかし右各売買代金は現金又は小切手をもつて各譲受人から長谷川に支払われた。さらに原告は昭和三十五年十二月九日野崎じやうの住民登録上の住所を大阪市北区曾根崎中二丁目四番地から兵庫県西宮市熊野町十八番地へ移転させ、あたかも同人が大阪市より西宮市へ移転したかのように仮装したり、同じく昭和三十五年三月五日水谷千代子の住民登録上の住所を名古屋市中区岩井通三丁目八番地から大阪市北区曾根崎中二丁目八番地へ移転させ、あたかも同人が名古屋市より大阪市へ移転したかのように仮装し、税務当局の調査を困難ならしめるよう工作したものである。原告はこれらの工作のための手数料として昭和三十五年十二月六日に金二、〇〇〇、〇〇〇円、同年同月十七日に金二、〇〇〇、〇〇〇円合計金四、〇〇〇、〇〇〇円を収受した。

(2)  仲介手数料金三三、〇〇〇円

原告は荻須信義より名古屋市北区清水町二の二一の土地について売買の斡旋を依頼され、昭和三十五年四月十三日右土地を大野被服株式会社に斡旋し荻須信義よりその仲介手数料として金三万三千円を領収した。

(3)  売上金額金五八九、三九三円

原告は昭和三十五年五月頃春日井市庄名町提下七四一の土地外十一筆(この合計面積二、三四三・八〇平方米―七〇九坪)を取得し、このうち六六三・二〇平方米(二〇〇・六二坪―原告は右十一筆を後に分合し、右二〇〇・六二坪は同所七四〇の三となつた。)を同年十月十一日伊藤寧に譲渡し、代金等合計金五八九、三九三円を領収した。

(4)  雑収入金二〇〇、〇〇〇円

原告は昭和三十五年十二月頃新田のぶと名古屋市千種区猪高町大字猪子石字福寿洞乙一一の七の土地の売買契約をなし、同人より手附金二〇〇、〇〇〇円を領収したが同人が右契約を履行しなかつたので原告はその頃これをいわゆる手附金流れとして自己の収入とした。

(四)  昭和三十六年分事業所得の総収入金額

売上金額金三、六一一、五〇〇円

(イ)  原告および荻須まさを、中村正雪の三名は昭和三十六年二月十一日春日井市庄名町字山之田一、〇四〇の五二の土地五、三二五・六一平方米(五反三畝二一歩)を山本平八郎外一名より取得し、昭和三十六年五月二十九日右土地のうち四、一四二・一四平方米(四反一畝二三歩)を加藤博正外三名に、一、一八三・四七平方米(一反一畝二八歩)を仲野雪子に譲渡し、原告は右代金として金二、〇一一、五〇〇円を領収した。

(ロ)  また原告は昭和三十六年八月二十六日愛知県東加茂郡足助町大字月原字大洞七の二、四、一六の三筆の土地を取得し、知人井上ハナの住所(原告は同人に無断でその住所を愛知郡豊明町から東京都に変更した。)氏名を無断で使用し同人名義に所有権移転登記手続をなし、同人名義をもつてうち七の四三三、六〇六・六〇平方米(三町三反八畝二六歩)を昭和三十六年十月五日村田竹三郎外三名に代金金六〇〇、〇〇〇円で譲渡し、七の二の三六、二一八・一七平方米(三町六反五畝六歩)および七の一六の一八五、一二平方米(一畝二六歩)を同日福島二郎に代金金一、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡した。

右(イ)、(ロ)の合計が金三、六一一、五〇〇円である。

(五)  昭和三十五、三十六年分の必要経費中の売上原価の算出明細は次の通りである。

(1)  昭和三十五年分

売上原価算出の対象土地 坪数 単価(坪当り) 取得価額

春日井市庄名町提下741

ほか11筆 709坪×1,800円=1,276,200円…(イ)

上記土地取得に要した費用

土地測量代 16,500円

農地転用費 14,700円

坪当り 計 237,500円…(ロ)

愛知用水に支払つた受益金 709坪×150円=106,350円

仲介手数料 100,000円

(イ)+(ロ) 1,513,750円

〈省略〉

(2)  昭和三十六年分

売上原価算出の対象土地 坪数 単価(坪当り) 取得価額

春日井市庄名町字山之田 5反3畝21歩(1,611坪)×1,200円=1,933,200円

1,040の52

原告の持分全地所有権の3分の1 〈省略〉…(イ)

東加茂郡足助町大字月原字大洞

7の2.4.16(概数2万坪×60円)1,200,000円(売買契約金額)…(ロ)

上記土地の登録税 33,000円…(ハ)

(イ)+(ロ)+(ハ) 1,877,400円

(六)  昭和三十五年分の給与所得

原告は昭和三十五年四月十四日まで名古屋西税務署に勤務し、金六三、七五六円の給与を得ているので右金額より所得税法(昭和三六年法律第三五号による改正以前のもの)第九条第一項第五号にもとずく給与所得控除額金二〇、七五一円を差引いた残額金四三、〇〇五円が原告の同年度の給与所得である。

(七)  昭和三十六年分の給与所得

原告は株式会社花屋質店から昭和三十六年中に金一三〇、〇〇〇円の給与を得ているので右金額より給与所得控除額金三四、〇〇〇円を差引いた金九六、〇〇〇円が原告の同年度分の給与所得である。

原告の反論中原告の自認する金二、〇〇〇、〇〇〇円は事業所得でなく、雑所得であるというが原告は昭和三十五年六月から不動産業を開業しており、かつ前記のごとく右土地の売却を長谷川正から依頼されて工作をなしその手数料として領収したものであるから右は事業所得である。またかりに右が雑所得であるとしても原告の係争年分の課税標準算定上差異は生じない。(昭和三十六年法律第三五号改正前の旧所得税法第九条等一項第四号、第十号参照)又原告は昭和三十五年一月頃より嶋田雄典とともに不動産の仲介をして収入を得ており、昭和三十五年四月十三日中村某谷某と三名が共同して名古屋市北区清水町二丁目二十一番の土地を大野被服株式会社に斡旋仲介し、荻須信義より手数料として金一〇〇、〇〇〇円を受領し右三名にて平等に金三三、〇〇〇円宛分配した。昭和三十五年分雑収入金二〇〇、〇〇〇円の対象となつた土地は同年十二月当時登記簿上は原告の妻鈴木富貴子の名義となつていて原告の言うように竹内某の所有するところではない。原告主張の昭和三十五年分工作費用金一、五〇〇、〇〇〇円は甲第四号証によるもその支払の事実が確認できない。これら工作費は水谷千代子につき金三〇〇、〇〇〇円、林昇典につき金七〇〇、〇〇〇円、野崎じやうの息子につき金三〇〇、〇〇〇円、その他金二〇〇、〇〇〇円というが水谷千代子が林昇典方に寄留した事実はなく、野崎じやうは昭和三十四年五月十六日名古屋市から大阪市に住民登録上の住所が移してあつたのであるから同地にても原告が本件工作をなすに十分であつたというべく更に金三〇〇、〇〇〇円の大金を費してまで仮装の手続を進める必要はない。又水谷千代子、野崎じやうが昭和三十五、三十六年分所得税について課税を受けた事実はない。よつて原告のいう右金一、五〇〇、〇〇〇円の工作費用支払の事実はこれを認めがたく、またその支払の理由も合理性に乏しく仮定の経費と推認せざるを得ない。と述べた。

証拠として原告は甲第一号証の一、二、第二号証の一乃至四、第三号証の一乃至六、第四乃至第七号証、第八号証の一乃至七を提出し、証人長谷川正、同村田竹三郎の各証言と原告本人尋問の結果を援用し、乙第十七号のうち官署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知と述べ、その余の乙号各証の成立を認め、被告は乙第一乃至第十七号証、第十八号証の一、二、第十九乃至第二十二号証を提出し、証人大山綱信、同松井清、同大須賀俊彦の各証言を援用し、甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

請求の原因たる事実(一)、(二)の各点と同(三)のうち昭和三十五年、昭和三十六年共に名古屋東税務署長のなした異議申立棄却処分の理由および名古屋国税局長のなした裁決処分の理由の各点は当事者間に争がない。而して被告の主張事実(一)のうち冒頭より原告の不動産仲介業開業までの点、昭和三十五年分の所得税の確定申告書を提出しなかつた点、昭和三十六年分の所得税の確定申告書を提出した点、名古屋東税務署長より被告主張通り原告の事業所得金額の課税決定処分および更正処分があつた点、右各処分につき原告が異議申立および審査請求をしたが被告主張通りの棄却決定、棄却裁決があつた点は当事者間に争がなく、成立に争のない乙第一、第二、第二十、第二十一、第二十二号証、証人長谷川正の証言によると被告の主張事実(三)(1)の点を認定することができ、(内金二、〇〇〇、〇〇〇円は当事者間に争がない。)成立に争のない乙第三号証によると同(2)の点を認定することができ、成立に争のない乙第四号証によると同(3)の点を認定することができ、成立に争のない乙第五、第六号証によると同(4)の点を認定することができる。原告は右(4)の目的不動産は竹内某の所有に属する旨主張するところ右乙第六号証によるも該事実を認めがたい。同(四)の(イ)の点は当事者間に争がなく、成立に争のない乙第七乃至第十六号証、右乙第十四号証に徴し真正の成立を認めうる乙第十七号証(公署作成部分については成立に争がない。)証人村田竹三郎の証言によると同(ロ)の点を認定することができ、昭和三十六年分の仲介手数料が金五五二、八〇〇円であることは当事者間に争がない。成立に争のない乙第十八号証の一、二によると同(五)の(1)の点を認定することができ、成立に争のない乙第十九号証に甲第一号証の一、二と右(四)の(イ)の事実を合せて考えると同(五)の(2)の(イ)の点を成立に争のない乙第十二号証によると同(ロ)の点を各認定することができ、右(イ)、(ロ)と同(ハ)の合計による売上原価は金一、八七七、〇六〇円が正当である旨の被告の主張事実によると同(ハ)の点を認定しうる。(登録税法第十九条の六、登録免許税法附則第七条参照)又同(二)(ロ)のうち電話料、電灯料、ガス水道料、組合費、昭和三十六年分のガソリン代、自動車税、広告宣伝費、事務消耗品雑費、支払手数料の各点は当事者間に争がなく、同(二)(ロ)のうち昭和三十五年分雇人費、家賃、ガソリン代、自動車償却費、自動車税、広告費、事務消耗品、雑費につき原告主張の金額の方が金三八三、九四七円、昭和三十六年分家賃、自動車償却費につき原告主張の金額の方が、金六二、六四七円夫れ夫れ多額であり、その通りとするも原告の昭和三十五年分総所得金額は前記認定の各事実と当事者間に争のない同(六)の事実によると金三、五九三、五六五円となり、昭和三十六年分総所得は前記各認定の各事実と右当事者間に争のない同(七)の事実によると金一、六一七、九二〇円となり、(前同(二)の事実参照)これら金額の範囲内において原処分のなされていることは計数上明らかである。原告の提出援用にかかる全証拠中右認定に反し原告の主張に副う部分は前記認定に供せられた各証拠とこれによつて覗われる徒らに作為を弄する原告の性格に対比して到底信をおきがたく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。他に請求の趣旨記載の各原処分を取消すべき事由も認められないので結局原告の請求を失当として棄却し、民事訴訟法第八十九条により主文のように判決する。

(判事 小沢三朗)

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